26年災害速報

2.広島土砂災害(八木町)

人は災害から多くを学ぶ
2014/11/29 (Sat) 23:15:07

 日本人は災害から多くのことを学んできました。
「日本は災害の多い国だから、常に備えなければならない」と。
台風が来て、洪水がおこれば、堤防を高く、強くしなければならない。
山崩れが起これば、危険地帯に指定して、人が住まないようにしなければならない。
地震が起これば建築基準を厳しくしよう、もっと研究しよう。
火山爆発が起こればシェルターをつくろう、と。
 しかし、これを実行するには金が必要です。
また人が住んでいる土地の場合、移転をしてもらわなければなりません。
安全性と私権がからみあい、
そのうちに「めったにないことだから、金をかけるのはホドホドにしよう」という案が出てきます。
 原発の再稼働の場合は明らかです。
原発が危ないのはよくわかった。
「しかし、再稼働しなければ、この町は全部シャッター通りになり、人がいなくなる。それでもいいの」。
そのうち「津波は千年に1回だし、火山爆発はいつおこるかもわかもわからない、らしい」。
なら、いいじゃないの〜〜。

2−1.広島土砂災害写真(2014年11月10日撮影)


写真−1.広島土砂災害:八木町側

写真中央に二本の崩壊地が見えますが、調査したのは左側の短い方です。
後方のピークは標高586mの阿武山(あぶさん)です。
撮影はR-54の陸橋からです。


写真−2.広島土砂災害:沢入口(八木町)

土石流のあった沢の出口です。
行ったのが11月10日なので、災害発生2ヶ月半後ということになります。
手前の家は流失して、跡形もありません。


写真−3.広島土砂災害:標高60m付近

沢の出口からすぐの所に見られる土砂の堆積状況です。
表層部は茶褐色の礫混じり粘土層で、礫は少なく、礫径は大きなもので20cm位です。
厚さはこの部分で約8mありました。
その下位には層厚約50cmの礫層があります。
この層の礫は径が大きく、最大では1m位あります。
礫の隙間が大きいので、なんとなく「ここを水が通ったのではないか」と言いたくなります。
この下位は風化花崗岩で、マサ化していますが、硬いので原位置風化でしょう。
写真では解りませんが、表層部の礫混じり粘土層と三層目のマサ層とは傾斜が異なります。
礫混じり粘土層は傾斜は約20度ですが、マサ層は70〜90度でほぼ垂直です。
このことは浸食力が、二回に分けて働いたと考えられます。


写真−4.広島土砂災害:浸食状況

沢の浸食は斜面傾斜でみると、二段階になっています。
写真中ABの急傾斜部分(70〜90度)と、Cの表土削剥部分です。
浸食順は、Aの深い浸食が起こった後、両側の表層剥離が起こったとおもいます。
なおBは花崗岩の礫層です。
沢がこんな風に、二段階に浸食されている例は、始めて見ました。


写真−5.広島土砂災害:薄くなる粘土層

上位の礫混じり粘土層と、下位の礫層がはっきり区別できます。
このことは二層間の堆積環境が異なったと考えられ、
下位の礫層は土石流によって堆積し、
上位の粘土層は上から流れてきた土砂が、少しずつ堆積していったと考えています。


写真−6.広島土砂災害:標高@@から下流を見る

下流を見ているので、右側が右岸です。
右岸斜面は表層から5m位は礫の少ない粘土層です。
その下位には礫の多い粘土混じり層があり、渓床となります。
したがって,土石流は、このような粘土層、礫層を浸食しながら土石流となったと思います。


写真−7.広島土砂災害:標高110m付近

標高110m付近の状態です。
渓床は礫が多く、礫の間隙には粘性の強い砂層が詰まっています。
この辺りまで登ると表層の土層が薄くなってくるのが解ります。


写真−8.広島土砂災害:標高129m付近

標高129m付近から上を見上げた写真です。
渓床は花崗岩の角礫が多く、これは崖錐として堆積していたものが、浸食によって露出したものと思います。
この辺りから花崗岩の岩盤が出てきて、傾斜も急になりちょっと登るのがきつくなりました。
ホントはあとひとがんばりして、崩壊の頭を見たかったのですが、力尽きました。
あと30mほどだったんですが、、、


写真−9.広島土砂災害:沢の堆積物分布

標高57mの沢の入り口から、129mの花崗岩岩盤が出てくるまでの区間の堆積物の様相です。
この沢では表層に礫混じりの砂質土が分布し、下位に礫層が分布するという層序ですが、
57m辺りの渓床は固結したマサ土が分布しています。
このマサ土は花崗岩が原位置で風化したもので、非常に硬いです。
77m付近の渓床には径30〜50cmの花崗岩の礫が見られます。
花崗岩の礫層は少しづつ層厚を減じながら129mまで続き、
ここで段差1m程度の滝があって、ここから花崗岩が出てきます。
したがって129mから上は、表土と岩盤(花崗岩)という二層の構成になります。
この調査結果から考えると、この沢の土石流は、
129mの段差(滝)をきっかけに洗掘を始め、
厚さ10mから15mの土層を土石流として流下したと言えます。


写真−10.広島土石流災害:標高別の推定断面図

標高別の断面図を考えてみました。
標高57mでは沢は深さ約15mまで浸食され、最下部は固結マサ土でした。
マサ土の上位には層厚50cm程度の礫層があります。
標高77mでは、渓床面は礫層で、上位は礫混じり砂質土です。
現地表面からの深さは10m程度あります。
標高129mでは花崗岩の岩盤が露出しています。
表土の厚さは1m程度です。


写真−11.広島土砂災害:住宅地区の排水路断面

後背地が山の場合、排水路が造られますが、
この大きさ(断面)は、上流部の集水面積によって決められます。
この写真の排水路からみると集水面積は、非常に小さいようです。
この排水路の断面積から逆算すると、後背地の集水面積がどのくらいに想定したかを計算できます。
計算方法は、昔習ったのですが忘れてしましました(^-^)。


写真−12.広島土砂災害:沢に見られたマサ土中の断層

マサ化した花崗岩に見られた断層です。
断層の分類からは上盤が落ちているので、正断層になります。
断層面には粘土化したマサ土が挟まり、上盤の上には礫層が載っています。
写真右側が下流方向です。
標高60m付近


写真−13.広島土砂災害:渓床断面

渓床の断面です。
下位はマサ化した花崗岩で見かけは淡茶色で、風化している様に見えますが、
ハンマーのピック部分でもはじかれるほどの硬さです。
したがってその場で風化したものといえます。
写真の上半分は渓床の礫です。
したがって、今回の土石流は、元の渓床をも浸食したと考えられます。


写真−14.広島土砂災害:断面が二段になった渓床断面

これまで見てきた土石流跡は、ほとんど深くえぐられ、渓床の斜面は垂直か、それに近いものでした。
ところが八木沢では二段になっているので、
この成因について、初期浸食と最終浸食の二回に分けて、主な浸食力が働いたと考えました。
ただ、これは反対のメカニズムも考えられるので、断定はできません。
とにかく珍しい断面だと思っています。



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